水深、17センチ

みだれかわ枕(MacLa Works)

2002.7.22


 がたがた、ぷしゅー。

「な、なによっ、一体何の音っ!?」
「エアコンがお亡くなりになった音です」

 ちーん。

「な、何でよッ!? 今日の気温、31度よ、31度ッ!? 死ぬッ、絶対死ぬッ!」
「心頭滅却すれば火もまた涼しと、戦国時代のお坊さんは言ったそうです。この前『利家とまつ』で、そう言ってました」
「年寄りくさい番組見てるんじゃないわよッ!」
「ワタルさまが セーイチさんとえろえろデートしてる間に見ているんです。ご迷惑はおかけしていません」
「えろえろってッ!? 見たのッ? あんた見てたのッ!?」
「……お帰りになったときの、ワタルさまの、魂こぼれた顔を見れば、大体予想はつきます……それに」
「……それに?」
「キスマーク、うなじからつま先まで、びっしりじゃないですか」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!」


「水深、17センチ」
〜#もの書き 2002年7月度競作お題『泳ぐ』参加作品〜
設定・本文:みだれかわ枕


 ごちんっ。

「痛いです」
 私は、頭を思いっきり小突かれたことを、ワタルさまに抗議。
「本当に痛いんですよ? すよすよ?」
 最近、ちょっと変な語尾の癖がついてしまいました。とあるオンライン小説のキャラクターの口調がうつってしまったのです。私の魂は不安定なので、影響を受けやすいですから。
「小突いたんだから、あたりまえ」
 頬に朱を散らしたままで、ワタルさま。キスマークの指摘が、相当恥ずかしかったようです。
 私は、この方に仕えるメイドです。
「でも、着せ替え人形でも痛覚あるのね」
「訂正してください。着せ替え人形ではなくて、アクションドールです」
 そう。
 私は、身長27センチの、ドールです。関節の造りがしっかりしたリカちゃん人形を想像していただければ、それでけっこうです。
 ちょっとしたハプニングで、私の体に、ワタルさまの魂のかけらが入り込んでしまって生まれたのが、わたし……メイドのショーコです。
 それから半年。
 私はワタルさまのお世話をして、過ごしてきたわけです。ですです。
 ……失礼しました。また変な語尾が。
 さて、私の雇い主であるワタルさまですが。
 バリバリの同人作家でいらっしゃいます。
 男の方の上半身裸がいっぱい出てくるマンガを描いていて……ああ、ときどき下半身裸も出てきます。
 そういうマンガを描く、同人作家でいらっしゃいます。
 そのように説明すれば、これ以上は何も言わなくていい、世の中とはそういうものらしいです。
 なお、ワタルさまは女性です。ワタルというのはペンネームで……本名がショーコでいらっしゃいますから、私と名前が同じなのは紛らわしいので、そちらの名前でお呼びしているのです。


「そんなことよりもっ!」
 そう叫んで、ワタルさまはびしっとエアコンを指差しました。
「壊れちゃった、どーしようッ!?」
「どうしようといわれても、てもても」
「まだ原稿たくさん残ってるのにッ! こんなに暑くちゃ、描けないわよッ!」
「ですから、心頭滅却すれば」
「話を戻さないでよッ」
「じゃあ、修理してもらったら、どうです? 電機屋さん呼んで」
「あ、そうか」

 ぷるるる、ぷるるる、ぷるるる……

「……あさってじゃないと、来れないってさ……」
 ワタルさまは、この世の終わりのような顔をしていました。
「それまでは、我慢するしかないじゃないですか」
「無理よッ! あたし東北生まれの東北育ちなのよッ!? こんな暑いところでエアコンなかったら、絶対溶けるッ! 溶けてなくなるッ!」
「いや、でも、死ぬわけじゃないですし」
「死ぬわよッ! それにショーコ、あんた自分は平気だとか思ってるんでしょッ!?」
「だって、平気ですよ? すよすよ?」
 ドールだから、問題ないです。本来、生き物ではないですから。
「あまいっ!」
「?」
「あんたの目、プリンターで印刷してるのよ? あんまり暑いと、溶けちゃうんだから」
 ……は?
「どろどろに溶けて、埃とかべたべたくっついちゃうんだから。見るも無残に」
「え……ええッ!?」
 そんな話初めて聞きました。
 さすがに目が溶けてしまったら……目を描くことで魂がこもった私は、無事では済まないような気がします。
「で、でも、ワタルさま。私のアイデカールを印刷したプリンターって、耐水性インクを使ってるんじゃ……?」
「熱には弱いもん」
 な、なんと。
 この世に生を受けて半年。そんなこと初めて知りました。
 だから。
 思わずワタル様と二人で、叫んでいました。

「「暑いの、イヤーっ!」」


★ ★ ★


 ワタルさまの部屋は、ワンルームマンションです。
 このワンルームというのは、一人暮らしをするのにはちょうどよいのですが、風通しが悪いという欠点があります。
 ですから、エアコンが壊れてしまった場合、窓を開けても、ちっとも涼しくないのです。

「ほら、ショーコもこう言ってる事だし」
「だからって、何でいきなり押しかけるんだ、パソコン一式抱えて……?」
「申し訳ありません、セーイチさん。別に私は、ワタルさまの独りよがりなワガママを弁護するつもりはなかったのですが……」
「言ってくれるわね、ショーコ。あんただって賛成したじゃない」

 ここは、ワタルさまの彼氏、セーイチさんの部屋です。
 セーイチさんはワタルさまよりも家賃は安いけれども広いアパートに住んでいます。その分駅が遠いのですが、部屋数も多いし。それに。
 それに、なんといっても。
 セーイチさんの部屋には、最新型のエアコンがついているのです。
「いや、待て。俺は別に、ワタルやショーコが来るのが嫌なわけじゃないんだ」
「じゃ、何の文句もないじゃない。美女二人が押しかけてきてあげたっていうのに」
「パソコン一式抱えてきているってところが、気に入らん」
「だって仕方ないじゃないっ! 原稿急がないと落ちちゃうんだもんっ!」
「だからって、なんでG3持ってくるッ!?」
「あたしはマックじゃなきゃ絵が描けないのッ!」
「だったらノートにしろよッ! iBook買っただろ、この前!」
「で、でもっ、画面大きくなきゃ、見えないじゃないっ!」
 そうなんです。
 エアコンがついているセーイチさんの部屋に押しかけるにあたって、ワタルさまは、パソコン一式を抱えてきたのです。あと、イラストの資料も。バンタイプの軽自動車に、載せて。
 パソコン本体、タブレット、MOドライブ、CD-R/Wドライブ、スキャナー、そして、21インチのCRT。
 夏のファッション雑誌、多数。20代の女性向け、ローティーンガール向け、通信販売のカタログ(美少年多数)。背景用に、るるぶ沖縄。
「六畳間の俺の部屋の二畳分をお前のパソコンが占領してどうするッ!?」
「だって、いるんだもーん」
「かわいく言ったって、誤魔化されないからなッ!」
「だってG3のB&Wって、ポリタンクみたいじゃない? だったら持ち運ばなきゃ」
「だったら灯油運んでろっ!」
 なお、六畳間のうち一畳は、すでにセーイチさんのパソコンで占領されています。残りの三畳に、セーイチさん、ワタルさま、そして私がいるわけです。
「しかもCATVモデムまで持ってきてどーするんだっ! ウチはADSLだぞっ!?」
「え? 使えないの?」
 エアコンがよくきいています。涼しいお部屋です。機械オンチですぐに『斜め45度でチョップ』するワタルさまとは違い、セーイチさんは機械の使い方が丁寧ですから、がたがた音がすることもありません。
「なんでブラウン管持って来るんだよッ! 普通重たいから止めないか!?」
「だって液晶はまだ高いし、色が不自然なんだもん」
 男性の一人暮らしの割には、けっこう小奇麗な部屋で……なんて。わたし、知ってます。ワタルさまが2日にいっぺんのペースでこの部屋に来て、掃除しているんです。自分の部屋の掃除は出来ないくせに、不思議ですね、すねすね。
「今は液晶のほうが色が正確だよッ! 純正品買え、純正品っ!」
「だってぇ、ボーナスは印刷代に」
 パソコンラックには、私の姉妹、ということになるのでしょうか、メイド服を着たドールが二人、おすましして座っています。もちろん魂は入っていないですから、座っているだけですけども。果たして私のお姉さんになるのでしょうか。それとも妹?
「あああっ、人生やめてるよ、ワタルッ、お前はッ」
「やめてないもんっ! セーイチこそボーナス払いでルパンのDVDボックス買ったくせにっ!」
 この六畳間の隣には、もうひとつ六畳間があり、あっち側にはお台所とお風呂があります。お部屋が多いと、お掃除のやりがいがありますね。
「それとこれとは話が違うだろっ!」
「違わないわよ、セーイチのほうが人生やめてますー。やめやめじんせいー。ふつーの人は、もっと別のところにお金使いますーっ! たとえばみず……」
「それじゃこの前買ってたソフトは何だ!? 美少年ものばっかり5つもまとめ買いしやがって!」
「なっ……資料だもん、今年の夏の流行はチェックしないと、売れ行きに響くもんっ! セーイチみたいにオカズに使ったりしないもんっ!」
 ……
 いつまで続くのでしょう、この不毛な言い争い……


★ ★ ★


 かちゃかちゃかちゃ。

「「ふんっ!」」
 はー……空気が重い……

 結局お二人はずーっと言い争いを続けていて。『お前のかーちゃんデーベーソー』まで行きかけたのですが、お二人のお腹の虫がきゅるるーって鳴いて。
 とりあえずご飯を食べたまではよかったんですけど。
 まだ、怒ってるんです、お二人とも。
 それで、私は、とりあえずお台所で洗い物をしている、と。
 そういう状態なのです。
 まあ、私は身長が27センチしかないですから、そのままでは食器洗い出来ません。
 そこで私、シンクの中に入って、お皿洗ってるのです。
 スポンジを包丁で四分の一に切って、洗剤をしみ込ませて、ゴシゴシゴシ……
 邪魔になるといけませんから、腰まである髪は、ポニーテールにしてあります。袖もしっかりとまくって。スカートはもともと短いですから、このまんま。
「ふー……」
 けれども二人分の食器を洗うというのは、けっこう大変です。
 人間サイズでしたら……そう、お風呂を五つか六つ洗うのと同じようなものですから。
 それにしても、この空気の重さは何とかならないでしょうか……
 セーイチさんとワタルさま、お食事のあと、それぞれのパソコンに向かって、黙々と作業しているんです。セーイチさんはウェブサイトの編集を。ワタルさまは夏の即売会用の水着イラスト集の下書きを。
 お互いを無視して。
 でも、時々振り返って。
 視線が合ったら、ふんっ、て……
 もー、まるで子供です、ですです。
 まあ、もともとラブラブエロエロなお二人ですから、すぐに仲直りすると思うんですけれども。
 ……
 どーやって仲直りするんだろう。
 やっぱり、ベッドの上で……?
 いやでも、私がいるのにそんな……
 ……それに、ベッドの上とは限らないですよ、すよすよ。
 人間の世界では『裸えぷろん』という恐るべき技があるというではないですか。なんでも裸えぷろんなら、お台所でえっちしてもオッケー……
 ちょ、ちょっとまってくださいっ、私がまだ洗い物しているのに、そんな破廉恥なっ!
(お二人は私の前ではその、えっち、したことありません。つまり私が生を受けてから半年、お二人はワタルさんの部屋ではえっちしてないのです。セーイチさんのお部屋か、ホテルで、ということになります……多分、野外では……してないと思うんですが……二人っきりのときはエロエロムードだから……もしかすると……うーん……)

 なーんてことを考えていたからでしょうか。

 つるんっ。
 ばっしゃーんっ。
 がらがっちゃーんっ!

「なんだどうしたっ!?」
「ショーコっ、どうしたのっ!?」

 シンクのなかで、思いっきり転んじゃいました。


★ ★ ★


「はくちゅんっ!」
「だ、大丈夫……?」
 ずぶぬれになった私を引き上げて、ワタルさまは、タオルできれいに拭いたあと、ドライヤーで乾かしてくれました。
「あんまりドライヤーを近づけすぎると、変形しちゃうぞ?」
「わかってるわよっ! イオンドライヤーだから、大丈夫だもんっ」
 いえ、大丈夫じゃないような気がしますよ、すよすよ。
 そんな勘違いをしながらも、私を心配してくださっているワタルさまとは裏腹に……セーイチさんは、いったい何をしているのでしょう……?
 さっきから、ゴソゴソと何かを探しているみたいなのですけど、けどけど。
「あったっ!」
「なにがよ?」
 まだ少し、ワタルさまは怒ってます。目が逆三角形です。
「これだよこれっ! やっぱ夏はこれだよなっ!」
 そういって、セーイチさんが高く掲げたのは……
「す……」
「スクール水着……?」
「そうっ! スクール水着だっ!」
 ドール用の、スクール水着でした。
 紺色です。
 しかも、胸のところには『しょぉこ』と書かれた白い布が縫い付けてあります。
 いったいいつの間に作ったのでしょうか……
 変なところでまめな人です……
 ……もはや私には、何をどうツッコんだらいいのやら……
「洗い物をするんだったら、濡れてもいい服にするべきだと思うぞ。違うか?」
 まあ、それはたしかにそうなのですが。
「それに、ワタル。お前さ、ショーコに服を買ったか?」
「だって、そんなこと言われても……」
「そこなんだよ、問題は! ドールってのは、着せ替えてこそ、価値があるんだ。そのまま同じ服を着せていても、何の意味もないっ!」
 な、なんと。私の価値は、そこにあったのですかっ!?
「わかりましたっ! 私、このスクール水着を着ます!」
「よく言った、ショーコ! さあ、早速この水着を着て見せてくれッ!」
「はいっ! 私、目からうろこが落ちた思いですっ!」
 そうと決まれば、早速……

「まてこらーっ!」

 あ、ワタルさま。
「何かが大きく間違ってるわよッ、何かがッ!」
「そうか?」
「ワタルさま、私はそうは思いませんが……?」
「間違ってるっ! 思いっきりッ!」
 ヒステリックにそう叫ぶワタルさまの肩を、セーイチさんはぽんぽん、と叩きました。
「何を言ってるんだ、ワタル……水着と言えば、スクール水着に決まってるじゃないか……」
 やけにさわやかな表情です。こんな顔もできたのですね、セーイチさんは。
「だから、そこからどーしてこーなるのよっ?」
「いや、だって、着せなきゃ」
「ああん、もうっ! そーじゃなくってっ!」
 ……?
 なんか、ワタルさま……ヒステリックすぎ……
 ……あ……
 な、泣いてる?
「あたしの水着は買わないくせに、なんでショーコの水着は用意してるかなっ!?」
「え、いや、だって……ええっ!?」
 狼狽するセーイチさん。気が付いたんですね、ワタルさまの涙に。
「セーイチの……っ」
「ワタ、いや、ショー……ッ!?」
「大馬鹿っ! スクール水着と心中してろっ!」

 ばっち〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜んっ!

「ワタルさまっ!?」
 ど、どうしたらいいんでしょうっ! 思いっきりセーイチさんのこと、ひっぱたいて、ワタルさま、部屋を飛び出していっちゃったっ!?


★ ★ ★


「……しまったな」
「怒ってましたね……」
「……しかも、泣いてた」
「そうですね……」
 ワタルさまが飛び出していって、数分後。
 セーイチさんは、ようやく、ぽそりとつぶやきました。
「よろしいのですか? 追いかけてあげなくて?」
「なんでさ?」
 しぼっ。
 タバコに火をつけて、吸うというよりは、口にくわえただけで、深くため息。
 セーイチさん、もう少し渋かったら様になるのでしょうけど。
「恋人って、そういうものじゃないんですか?」
「知ったような口を」
「月9のドラマで見ましたから」
「知識が偏ってるな、ショーコは」
「日曜と月曜の夜は、テレビを見ているんです」
「他の日は?」
「ワタルさんが、部屋で絵を描いてますから。お邪魔にならないように」
「なんで、日曜と月曜なんだ?」
 ……ああ、わかりました、したした。
 この人は、すごく鈍い人なんです。
 だめですよ、ワタルさま。
 この人には、ちゃんと言わなきゃダメなんです。
「……日曜月曜は、ワタルさまのデートの日ですから」
「……ああ、なるほど」
 セーイチさんは、月曜か火曜が休みなのです。だから、どちらかの前日は、ワタルさまのデートの日。お泊りすることが多いので、私は気兼ねなくテレビを見ることが出来るのです。
「……なるほど」
 くわえタバコのまま、セーイチさんは、手元の雑誌をパラパラとめくりました。
 ワタルさまの、資料用の雑誌。
 浴衣とか、水着とか。
 ふとマックのディスプレイをみると、書きかけのイラスト。
 女性の、水着のイラスト。
「これ、ショーコそっくりだな……」
「そのモデルは、実は私です。顔立ちがワタルさまと同じだからって」
 ワタルさまとそっくりな私をモデルにした、イラスト……
 モデルは、私でなければならなかった……
「セーイチさん。どういうことか、お分かりになりますか?」
 るるぶ沖縄とか、普段絶対書かない女性の水着イラストとか。
「あ」
 セーイチさんは、実に間の抜けた声を上げました。
 そう。
「……の、ばか……水着買いたかったなら、ちゃんと言えよ……」
「……まったくです」
 バカは、どちらかというと、気が付かなかったセーイチさんのほうですけど、けどけど。


 セーイチさんも部屋を飛び出していって。
 結局二人は帰ってこなくて。
 私は仕方がないので、スクール水着を着て、ゴールデン洋画劇場を見ていました。
 ショーン・コネリーは素敵だと思いますよ、すよすよ?


★ ★ ★


 朝帰りしたお二人は、ちゃんと仲直りしていました。
 でも、首筋や頬にキスマークがいっぱいあるのは、社会人としてどうかと思うのです。


 数日後。
 ワタルさまの部屋のエアコンは、部品を取り寄せなければならないということで、まだ直っていません。
 それで、ワタルさまと私は、まだセーイチさんの部屋に居候させていただいています。
 けれども、今日はなぜか、ワタルさまの帰りが遅いのです。
 平日で、セーイチさんももう帰ってきているのに、ワタルさまはまだ。
「どーしたんだろうな」
「さあ……?」
 とかつぶやいた、その瞬間。
「たっだいまーっ!」
「ワタルさま、お帰りなさいませ」
「遅かったな、どうしたんだ?」
「ふっふっふっふ……」
「やめろ、その怪しげな笑いは」
「買ってきたのよ……」
「は?」
「買ってきたのよっ! ショーコっ、これであなたの優位は崩れたわっ!」
「は、はぁ?」
「見よっ!」

 ずばっ、とスーツを脱ぎ捨てた、その下には。

「犯罪ですっ! ワタルさまっ! 20代の女性がソレは、はっきり言って犯罪ですっ!」
「ほーっほほほほほほっ、なんとでも言いなさいっ! これでセーイチも生身のほうがいいって、よーくわかったでしょっ!」
「そーいう問題ではないですよッ、ワタルさまっ! その胸とか太もものところとか、地の文で描写できないじゃないですかっ!」
「別に描写なんてどーでもイイのよッ! セーイチが水着を買ってくれないから、自分で買ってきたのよっ! セーイチの趣味のやつをッ!」
「って、まだ買ってあげてなかったんですか、セーイチさんっ!? ……せ、セーイチさんっ、そこで固まってないで、どうにか言ってあげてくださいっ!」


 あ、ああああ、あああ……


終わり。


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