登場人物。
日野イルカ
ごくごくふつーの演劇部員。
エッチに興味があるあたりも、ごくごくふつー。
豊田ありす
眼鏡、意地悪、優等生で、演劇部員。
制服はセーラー(タイは茜色)
首輪
黒い革製。ちょっと太め。御丁寧に鎖がついてる。
演劇部の部室には、たまに、とんでもないものがあったりする。
たとえば、灰皿。
んー。まあ、ふつう、中学の演劇部の部室には、ないんだろうなあ。
それと、火鉢。
なんであるんだ? 昔の小道具か? でも、灰もちゃんと入ってる。使えるのだ、これ。
そして。首輪。
「……なんであるんだろ?」
部長の豊田ありすが、聞いてくる。
俺の方が知りたいっつーの。
自己紹介、しといた方がいいんだろうか?
俺は、日野イルカ。変な名前だって、笑うなよ。なんと俺のオヤジが「蘇我入鹿」のファンらしい……ワケ分からん。やっぱ、笑っていいよ。
まあ、演劇部に入ってるっていう以外は、ごくふつーの中学生だ。
んで、隣にいる眼鏡女が、豊田ありす。こいつも、すげー名前だよなぁ。おなじ演劇部の、部長だ。
眼鏡かけてて、意地が悪い。なんつーのか、あんまり彼女とかにしたくないタイプの女。名前だけ聞いたら、めちゃくちゃかわいらしいのにな。
俺たちは、部室の掃除をしていた。年末は近いが、別に大掃除というわけでもない。なんてゆーか、言ってしまえば『何となく』だ。
「どうせ彼女も無しに、部室でごろごろするしか能がないんでしょう」
ありすはそう言って、机の上を片づけ始めた。そういうこと言うか?
「うるせえ。オトコもいねぇくせに偉そうに言うんじゃねぇ」
何となく、ありすと俺とで、掃除をしていたら、この首輪を見つけた、とゆーことだ。
ああ、誤解のないように言っておくと、俺がありす、と呼び捨てにするのは、単にこいつが、嫌がるからだ。普段俺の方が迷惑しているのだから、これくらい、いーんじゃないだろうか?
「……なんであるんだろ?」
ありすが、ぽそりと、繰り返す。
「知らねぇよ。火鉢と同じで、小道具じゃねぇの?」
俺に、それ以上どう言えとゆーんだ。
「火鉢は大道具よ」
……か、かわいくねぇ女!
「首輪は、まあ、たしかに、小道具だけどね」
なんつうか、ありすって、言葉のアクセントがいちいち、かわいくねぇ!
「うるせぇ! 捨てようぜ、ワケわからんもんは」
部室に首輪があるというのは、まあ、全くワケが分からん。
もっとワケ分からんことには、この首輪、犬用にしちゃ、やけに豪勢なのだ。
黒光りする、黒色……革、だな。しかも、素人目にも、すげぇいい仕立てだって分かる。
つながっている鎖は、長さはそんなにない(せいぜい30センチほど)けれども、ぴかぴかに輝いている。鉄とか、そういうんじゃない……まさか銀とかかよ?
犬用じゃなかったら、猫用か? んなばかな。
じゃあ、こんな首輪使う生き物っているのかよ?
「……捨てるには、惜しいくらい、いい造りよね……」
ありすが、そう言う。たしかに。たしかに、いい造りだ。俺も、頷いた。
「……着けて、みようか」
……ちょっと待て! 思わず頷きそうになったぞ!
「お、おい?」
あわてて、首輪を持っているありすの顔をのぞき込む。なんか、うっとりしてないか? しかも、なんか……それが、かわいい……?
「なによ、人の顔、覗き込んで」
「なにバカなこと言ってんだよ?」
いや、普段のありすの顔だ。気のせいか。
「バカはイルカひとりで十分よ」
むかつくことに、こいつは俺のことをいるか、と呼び捨てにする。
その上、バカだと?
「なに言ってやがる」
「あたしが、何か言った?」
気のせいだったようだ。ありすはむかつく女だ。ちっともかわいくねぇ。
「いや、別に」
「じゃ、悪いけど、あたしに着けてくれる、コレ?」
……ちょっと待ていっ!
首輪を差し出すありすを、思わず見つめてしまう。何なんだ、こいつは。分からんぞ、俺には!
「なにボサッとしてるのよ、着けてよ」
「おまえこそ、なに言ってるんだ!?」
いや、マジで。
「首輪があるから、着けてもらう。自然じゃないの」
「全然自然じゃねぇ!」
まじめな顔して、ワケの分からんことをほざいているありす。
一体何なんだ?
「それとも、イルカが自分で着ける?」
「着けるか、んなもん!」
な、なんか、会話がおかしいぞ、なんか!
「じゃあ、あたしに着けてよ、ほら」
そう言ってありすは俺に首輪を押しつけ、近くの椅子に座って、俺に背を向けた。背後から首輪を着けてくれと、そういうことなのだろうが……
「あ、あのなぁ……」
あきれて、モノが言えん……
「早く、して」
……有無を言わせぬ口調は、いつものありすだ。後ろ姿も、まあ、いつものありすだ。
だけど……なんか違う。よく分からないが……なんか、違うぞ。
「着ければ、いいのか……?」
な、なに言ってるんだ、俺……
「そ。着けて」
「分かった。着けりゃ、いいんだろ」
……お互いの言葉は、いつもと同じ。変わりない。けど、コレ、どう考えたって、ヘンだぞ!
ヘンなのは分かってるんだけど……
俺は、受け取った首輪をありすに着け始めていた。
首輪は、ベルトのような構造をしていた。一方の端に金属の輪がついていて、そこにもう一方を通す。
通すときに、ありすの首に、手が触れた。とてもすべすべしていて、白い。そこに、漆黒の首輪。
「な……痛くないか?」
「別に」
あっさりとありす。あまりに普段の口調と変わらなかったので、俺も思わず言い返してしまった。
「あ、そーかよ」
そして、首輪を締めていく。すこしづつ。ありすの首を絞めていく手応えが、伝わってくる。
「ぐっ……」
ありすの喉が鳴る。締めすぎた!?
あわててゆるめようとすると、ありすの手が、それを押さえ……え?
ありすは、首を横に振っていた。
「大丈夫だから」
嘘つけ、大丈夫なわけ!?
「でも、苦しいだろ? つーか、ヘンだって、コレ」
「ううん……首輪があるから、それを着ける……普通よ……そうでしょ?」
たしかに……首輪は着けるもので……あー、なんか、変な気もするが……
「じゃ、もっと締めるからな」
「うん」
で、俺はもう少しだけ力を入れて、首輪を着けてやった。たぶん、生唾飲み込むことも出来ないくらい、しっかりと。
「……着けたぞ」
「うん」
ありすは少しかすれながらも返事をして、振り返った。
首輪を着けたありすは……
「どう?」
「ああ……」
たぶん、感想を聞きたかったんだろうけど……俺は、生返事しかできなかった。
「なんだかヘンだわ、コレって」
「自分で言うなよ」
ありすはいつもと同じ、人を小馬鹿にした目で、みつめてきていた。
「なぜだろう……この首輪を見たときから、着けたくなったのよ」
そういって、指先でそっと首輪をなぞっていく。つつつ、と、滑らかな革を、ありすの細めの指が動いていく。
「そりゃ、おまえ……ヘンタイだぜ」
俺はそう言っていた。いや、どう考えてもヘンタイだぜ。
いつものありすなら、何か言い返す。
「そうね、ヘンだわ、ヘンタイよ、コレじゃ」
ところが、ありすはあっさりと頷いた。
「でも、ヘンタイの私に首輪を着けたのは、あなたよ、イルカ……」
「俺もヘンタイってか」
誤魔化しがてら、笑う。
そう。たしかに俺たち二人がいまやっているのは、マトモじゃない。
「ヘンタイ同士だわ」
「ヘンタイ同士か」
向き合って、お互いにくすくすと笑った。
笑ってから、どちらかともなしに、キスをしていた。
俺、キスは初めてだ……たぶん、ありすも。
初めてのはずなのだが……いわゆる、ディープキスというやつをしていたのだ。
それが、当たり前だと思ったから。
ゆっくりと抱きしめ、俺は舌をありすの口に差し入れていた。
ありすもそっと舌を入れてくる。
ちょうどお互いの舌が絡み合うような格好になってる。
そこから、もっと舌を絡ませるように動かすと、ぬめぬめとありすの舌を舐め回すことになる。湿った音が口から聞こえてくる。
ありすの脇の下から背中に手を回していると、ちょうど首輪に指が触れた。
滑らかな感触。
ゆっくりと指を首輪にそって動かすと、ありすはぶるっと震えた。
かまわずにもう少し、指を動かす。たまに金属のパーツの冷たい感覚があるけれども、それがかえって、アクセントみたいなカンジで、俺は首輪を撫で続ける。
ありすは時々首をすくめるような動きを見せる。くすぐったいのか、触ってほしくないのか、よく分からない。構わずに撫でていると、俺に体を押しつけてきていた。
いったん舌を絡めるのをやめて、ありすの目は、なんだかとろんとしているような気がする。
「ね……これって、エッチしてるのよね?」
「あー、そうだな、たぶん」
たぶん俺もとろんとした目をしているんだろう。首輪を撫でながら、何となく、そう答えた。
「イルカは、私のこと、好き?」
ありすは体を押しつけたまま、そう聞いてきた。胸が、柔らかい。
「わからねー……キライじゃねーけど、恋人にはしたくねー」
正直に、そう答えていた。だって、ありすはいつもウルセーし、人をバカにしやがるし。
「私も、イルカが彼氏になんて、考えたこともない」
「ああ……でも」
「でも?」
「首輪を着けたありすは、カワイイと思う」
これも、いま、俺は正直にそう思う。
「そう……ありがと」
ありすは、体をさらに押しつけてきた。俺の右足を挟むようにして、密着度を高める。
そうすると、俺の股間が、ありすの下腹のあたりに当たるようになり……やべ、なんか、むちゃくちゃ勃起ってるよ。
それは、ありすにも分かったらしい。いままで見たこともないような笑顔で、ありすはこう言った。
「勃起ってるね……こんなに……私とキスして、私の首輪撫でて……こんなに、勃起ってるね……」
「そうだな……俺、むちゃくちゃ勃起ってる……」
すると、ありすは、腰をゆっくりと回すように動かし始めた。
「とても硬いね……鉄か何か、入ってる?」
「そんなワケないだろ……ありすのせいで、こうなったんだよ」
「そう……ごめんね、ごめんなさい……」
「ナニ謝ってんだよ」
「分からない……けど、元に、戻して、あげる……」
「……元にって、どうやるんだよ?」
「口で……」
な、なんか、無茶苦茶なことになっているような気がする。
だけれど、俺は、こう答えていた。
「わかった。口で、するんだ」
ありすの答えは。
「……はい」
椅子に座って、ズボンのチャックを降ろす。
するとありすが俺の足の間に割り込んできて、しゃがむ。
ゆっくりと俺のに口をよせて……
正直、よく覚えてない。
だけど、ムチャクチャ気持ちよかったことは覚えている。
俺はありすの顔に思いっきり撒き散らしてしまい、
「ワリィ」
と謝った。するとありすは首を横に振って、手で拭き取り、それを舐めていった。
「……首輪のは……イルカが拭いて……ね?」
言われて、俺は素直に、首輪にもついてるのを指で拭いてやった。
うう。なんか、すげぇ粘っこいんだけど……。
ティッシュで拭くかどうするか考えていると、ありすは俺の手を取り、捧げ持つと、口を指に運んでいき、ゆっくりとしゃぶり始めた。
キレイに舐めとると、ありすは、一言。
「ふふ……ご奉仕しちゃったわ」
それから。
俺とありすは、別に変わっていない。
二人でいることは多いような気がするが、それは前からだと思うし。
ああ、変わっていない。
ただ、ときどき二人で、エッチをすることと……ありすが今も首輪を着けていること以外は……
首輪のせいだ、多分。
おわり。